旦那・女将のとっておき話「繋がる餡の物語り」

御菓子司「新正堂」の3代目、渡辺仁久社長に、とっておきの「餡」のお話をうかがいました。

 

伝統を守り変革を恐れない餡づくり

大正元年(1912)に新橋で創業した「新正堂」は、創業者渡辺新次郎の名と、新橋の「新」、そして創業年の「正」を組み合わせて命名。

関東大震災、戦時中の空襲、都市開発を経験し、3度の移転を強いられながら、新橋の街に根付いた和菓子を造り続けています。

 

店舗が、浅野内匠頭が切腹したという田村右京大夫の屋敷跡にあったことに因み、忠臣蔵にまつわる和菓子を生み出し、話題になっています。

三代目当主の渡辺仁久さんによる、アイデア溢れるネーミングと印象深いパッケージデザイン、そしてこだわりの味は、和菓子の魅力や楽しみを多くの人に伝えています。

愛宕神社の石段を模した「出世の石段」、景気回復を願った「景気上昇最中」、そして、一度その名を聞いたら忘れられない「切腹最中」。

最中の皮が「切腹」のように口を開け、つぶ餡がはみ出し、そこに、白い紙が鉢巻風にひと巻きしてあります。さらには、黒い餡ばかりで「腹黒い」と思われてはいけないので、中に白い求肥を忍ばせて、型崩れを防いでいます。

三代目の遊び心あふれた商品です。

 

周囲の人達に、「『切腹』という名ではいかにも縁起が悪い」と猛反対されましたが、それを押し切り1990年(平成2年)に発売。ビジネスマンの仕事上のお詫びの手土産としても評判を呼び、今では店の看板商品となりました。

さらに、自ら生産者のもとに通って選び抜いた小豆を使い、伝統的な製法である水に戻して作る餡ではなく、「直火炊き」という製法を用いています。昔はアクの強かった小豆も、最近ではアクは少なく、ゆで汁をあまり捨てず、直火で短時間に煮ます。すると豆の風味が豊かになり、コクのある甘味になります。

上顎に最中の皮がつかないようにと、もち米で作られた厚めの皮は、香ばしさとパリッとした食感が評判。

 

「伝統は守るべき。しかし、変えないと繋がらない」という精神をもとに、昔からの小豆1kgに砂糖1kgという割合を、砂糖を1/3から1/4くらいまで減らしています。あまり減らすと日持ちが悪くなるため、ギリギリの塩梅を目指し「糖度控えめ」の上品な味わいが人気を呼んでいます。

 

繋げる、繋がる、餡のストーリーです。

 

(写真:左が4代目の仁司さん、右が3代目の仁久さん) (写真:切腹最中)

 

取材: 森 明 / 早川由紀

文: 早川由紀