老舗は、何年以上営業が継続をしていたら老舗になるかが話題になります。
芝百年会は、100 年前後継承されている 22 の老舗が集まり創設されました。
「百」は、大和言葉で百太夫の「もも」と読むか、八百屋の様に「お」と読まれて、百年を「ももとせ」と読み、多くの年月、長い年月の例えとして 使われています。
また、中国の古詩に「生きられる年、百を満たず」とあり、昔、100歳は稀であったようです。
99歳を祝う言葉が白寿、百歳を祝う言葉が百寿、紀寿、上寿という様です。
この紀寿の「紀」は、「物事のおこりを定める。出発点と、それから後のすじ道をたてて仕事を進める。転じて、事業や商売の進め方。経営の仕方。」とあります。
まさに、100 年を迎えての出発点と、それからの行く先の道をたてる起点 になると考えてもよさそうです。
「老舗」を「しにせ」と読んでいますが、それは当て字で、読みは「ロウホ」である。「しにせ」は、「為似にす、仕似にす」の連用形」の名詞化したもので、その語義は、似せてする、真似をすることです。
この「しにせ」は、江戸時代の井原西鶴の日本永代蔵巻五に「商人は只しにせが大事ぞかし」とあり、近松門左衛門の心中・天網島の中之巻にも紙屋の治兵衛の話で、「かみは正直 商売は、所がらなり老舗なり。」とあります。
「しにせ」は、「商売を只真似し続ける」、「場所柄の先祖伝来の業を正直に守り継ぐこと」、「数代続いて繁盛している商店」の意味を持っているようです。
これらは、18 世紀前後の浄瑠璃本に書かれた「しにせ」ですが、これより前の 15 世紀 に「しにせ」の言葉を使った世阿弥の「風姿花伝書」があります。
同書の「二 物学(ものまね)條條、六 花修云、七 別紙口伝」で、女、法師 などの物まね、能を創ること、能所作を語り、秘伝の神髄を「秘すれば花なり」と伝えています。
花とは心のことで、「花と、おもしろきと、めづらしきと、これ三つは同じ心なり」とあります。
その基になる能の表現の幽玄、強さなどの真似について論じ、「よく仕似せたらんには、幽玄のものまねは幽玄になり」と書いています。
しかし、物真似は、ともすれば幽玄が弱さになり、強さが荒れた表現になりやすく、それを防ぐには、「物数を盡して、工夫を得て、珍づらしき感を心得うる」が求められるとあります。
物数をつくすとは、物真似をあらゆる役柄・曲柄・芸風・風情などにわたって習得し、その上に、臨機応変に見物人の心をつかむように才知を働かせて工夫を体得することだというのです。
「しにせ」は、単に繰り返す物真似ではなく、心を用いた工夫を必要とし、 才知を働かせて人の心を得なければならないということです。
芸道も、商道にも「しにせ」はあり、いずれも「しにせ」の要件は奥が深く、それを長い間継承していることが認められたら、「老舗」といわれるのでしょう。
「芝地区」の老舗は、
➀ 芝の地理的条件と周辺地域の変化にともなった土地柄に根差して、所柄の文化、経済を生かして、洋と和の文化に着目し。
② 地元に愛し続けられて。
③ お客様の満足を我こととした数世代のしにせ。
④ 商売の営業、商品作りに、感覚(五感)を活用した「技巧」を維持し、 革新し。
⑤ 時代の需要をとらえて新しいマーケッティングの変化を才知で工夫をし。
⑥ 魅力を感じて頂ける店づくりやブランディングに常に心を重ねています。
「しにす」を繰り返した 100 年の芝の老舗の知恵です。
参考文献
藤堂明保編 学研漢和大字典 学習研究社
金澤庄三郎編 新版 広辞林 三省堂
饗庭興三郎校訂 日本永代蔵 冨山房
近松遺蹟保存会編 近松叢書第 1 巻 有朋堂書店
野上豊一郎著 花傳書研究 小川書店
文:芝百年会顧問 森 明